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院長ブログ

医療の当たり前を追求する

当院院長のブログです。
地域の皆さまへ、当院に関することはもちろん、
耳・鼻・喉に関する様々なお役立ち情報をお届けします。

当院院長のブログです。地域の皆さまへ当院に関することはもちろん、耳・鼻・喉に関する様々なお役立ち情報をお届けします。

めまい

日本めまい学会での発表と「中耳加圧療法」

― 難治性メニエール病に対する新しい選択肢

現在、横浜で開催されている日本めまい学会で、当院の「めまい外来」を担当してくださっている隈上先生が、長崎日赤原爆病院と、じんのうち耳鼻咽喉科の連名で**「中耳加圧療法の治療中止症例」**に関して発表されています。

 

今年5月の日本耳鼻咽喉科学会総会でも、同じく長崎日赤原爆病院と当院の症例を用いて**「中耳加圧療法と内リンパ嚢手術を併用した症例」**に関する臨床成績を報告されました。

 

中耳加圧療法は、富山大学・將積先生らのグループが長年研究を続けてこられ、近年保険収載された“新しいめまい治療”です。最新の**「メニエール病・遅発性内リンパ水腫診療ガイドライン 2025」**でも、難治性メニエール病に対する重要な選択肢として位置づけられています。

今回は、そのエビデンスをかみ砕きながら、

  • メニエール病とはどんな病気か
  • 中耳加圧療法とは何をしているのか
  • どの程度の効果が期待できるのか
  • 当院ではどのような患者さんに導入しているか

をまとめてみたいと思います。

 

◎ メニエール病とは?

メニエール病は、

  • ぐるぐる回る回転性めまい発作を繰り返す
  • 低音域から始まる難聴
  • 耳鳴り・耳がつまる感じ(耳閉感)

を特徴とする内耳疾患です。内耳のリンパ液がむくんでしまう 「内リンパ水腫」 が病態と考えられています。

 

発作は数十分〜数時間続き、これが何度も起こります。病気が進むと中〜高音域にも難聴が進行し、元に戻らない難聴になることもあります。30〜40代の働き盛りに多く、ストレス・睡眠不足・疲労の影響も大きいとされています。最近は高齢の患者さんも増加傾向にあるといわれています。

診断のためには、症状の問診に加えて

  • 赤外線フレンツェル眼鏡による眼振(眼球の動き)の観察
  • 純音聴力検査
  • 平衡機能検査(vHIT:ビデオヘッドインパルステスト、VEMP:前庭誘発筋電位)
  • 必要に応じて、遅延内耳造影MRI による内リンパ水腫の描出

などを組み合わせて評価します。

 

◎ これまでの治療と「段階的治療」の考え方

メニエール病の治療は、大きく

  • 1. 発作期の治療(今つらいめまいをおさえる)
  • 2. 間欠期の治療(次の発作を起こりにくくする)

に分かれます。

 

1. 保存的治療

まずは

  • 睡眠時間の確保
  • ストレス・疲労の調整
  • 適度な運動(有酸素運動)・規則正しい生活
  • 利尿薬・循環改善薬などの内服治療

といった保存的治療からスタートします。これで多くの方はコントロール可能ですが、なかには何度も発作を繰り返し、日常生活や仕事が保てない難治例があります。

 

2. 従来の次の一手:外科的治療

保存的治療でコントロールできない場合、従来は

  • 内リンパ嚢開放術
  • 前庭神経切断術
  • 化学的迷路破壊術

といった外科的治療が検討されてきました。内リンパ嚢手術は、聴力と前庭機能を残せる可能性があり、手術を行う場合、第一選択とされることが多いのですが、化学的迷路破壊術や前庭神経切断術については、めまい発作は抑えやすい一方で、場合によっては聴力が低下することがあったり、聴力への影響や侵襲の大きさが問題でした。

 

◎ 中耳加圧療法とは? ― 保存的治療と手術の“中間の治療”

この「保存的治療」と「外科的治療」の間に位置づけられるのが、中耳加圧療法です。

<仕組み>
装置の種類によってやり方は少し異なりますが、共通するポイントは外耳道の圧を周期的に変化させて、中耳〜内耳にやさしい圧変化を加えるというシンプルなものです。

1. Meniett® を用いた方法(鼓膜換気チューブが必要なタイプ)

富山医科薬科大学(当時)の將積先生らが行った研究では、鼓膜に小さな換気チューブを挿入し、そのチューブを介してMeniett®という装置から 6Hz、最大12cmH₂O程度の陽圧パルスを中耳→内耳へ伝えます。

  • 難治性メニエール病6例に施行)
  • 5/6例でめまい発作が減少 → めまい有効率83%)
  • 聴力は改善なしがほとんど(5例不変、1例悪化)

と報告されています。少なくとも3か月以上続けることが望ましいとされ、

  • 高齢者
  • 両側例
  • 片耳が“唯一聞こえる耳”の症例
  • 全身麻酔のリスクが高い症例

といった、手術に踏み切りにくい難治例に対して低侵襲で行える中間的治療として位置づけられました。

 

2. 現在主流のEFET01型装置(非侵襲タイプ)

日本では現在、第一医科の EFET01 という装置が薬事承認を受けており、鼓膜切開や換気チューブ挿入を行わず、外耳道にチューブを当てるだけで陰圧・陽圧を繰り返しかけることができます。

  • 1回3分、1日2回
  • 自宅で安全に実施可能
  • CPAP療法のように「在宅指導管理料」として保険収載(C120 在宅中耳加圧指導管理料)

というのが特徴です。

 

◎ EFET01による最新の成績

富山大学先端めまいセンターからの報告(將積ら、2022)では、

  • 保存的治療に抵抗する難治性メニエール病・遅発性内リンパ水腫 44例を対象
  • EFET01 を 1日2回、自宅で3分ずつ
  • 月間症状日誌と DHI(めまいによる日常生活支障度)で評価
  • 治療開始12か月後に効果判定

という条件で検討されています。

結果は、

  • 月間めまい発作日数
  • 治療前:平均 11.3日
  • 12か月後:平均 2.2日まで減少(p<0.001)
  • めまい係数(治療前比)
  • 4か月時点:軽度改善以上 80%
  • 12か月時点:軽度改善以上 93%、著明改善 68%
  • DHI 合計点:治療前 45点→12か月後 23.8点(p<0.001)
  • 聴力:不変が約80%、改善・悪化がそれぞれ約10%

というものでした。

つまり、

  • 難治例であっても、1年きちんと続けることで9割以上の方に「めまいの頻度が減った」という効果が期待できる
  • 一方で、聞こえ(聴力)や耳鳴りに対する効果は大きくは期待できない

ということが分かっています。

 

◎ 診療ガイドライン2025での位置づけ

最新の 「メニエール病・遅発性内リンパ水腫診療ガイドライン 2025」 では、中耳加圧療法は次のように整理されています。

 

CQ7:メニエール病に中耳加圧治療を行うことは有効か?

  • 難治性メニエール病の「めまい症状の改善」を目的として行うことを強く推奨(推奨の強さ1、エビデンスレベルB)
  • 一方で、難聴や耳鳴りといった蝸牛症状の改善を目的として行うことは「行わないことを強く推奨」(同じく推奨の強さ1、エビデンスレベルB)

つまり、「めまいを抑える治療としては強く勧められるが、聴力や耳鳴りを良くする治療としては勧められない」という立場が、ガイドライン上もはっきり示されています。

 

適応と評価

ガイドラインおよび中耳加圧装置適正使用指針では、概ね次のような症例を対象としています。

  • メニエール病確定診断例/確実例、遅発性内リンパ水腫確実例
  • 生活指導+薬物治療などの保存的治療を十分に行っても月のめまい発作日数が2日以上続く難治例
  • 重症度分類で Stage 4(外科治療も考慮されるレベル)

治療は原則として 1年間継続し、

  • 4週間頃に中間評価
  • 12か月時点で最終的な治療効果判定

を行うことが推奨されています。

外科治療(内リンパ嚢開放術など)との関係では、「保存的治療 → 中耳加圧療法 → 外科的治療」 という段階的治療の中で、
中耳加圧療法が手術に進む前の標準的な選択肢として位置づけられています。ただし、内リンパ嚢手術を中耳加圧療法に先行して実施してもよいことになっています。

 

◎ 当院での中耳加圧療法の位置づけ

当院では、隈上先生によるめまい専門外来で、難治性メニエール病や遅発性内リンパ水腫と考えられる症例のうち、

  • 内服治療や生活指導ではコントロールが難しい
  • 発作が繰り返し起こり、仕事・家事・学業への影響が大きい

といった方に対して、中耳加圧療法の適応を検討しています。

 

◎ 実際の治療の流れ(イメージ)

1. 詳細な問診・検査
vHIT、VEMP、聴力検査、必要に応じてめまい発作時の自己動画記録や遅延内耳造影MRIまで行い、診断を確定します。
2. 保存的治療を十分に行う
生活習慣の見直しと薬物療法を時間をかけて行います。
3. それでも発作を繰り返す場合に中耳加圧療法を提案

患者さん用の説明資料を用いて、

  • 期待できる効果(めまい頻度の減少)
  • 限界(聴力・耳鳴りはあまり改善しない)
  • 1日2回・3分を少なくとも1年間続ける必要があること

を丁寧にお話しします。

4. 在宅での治療+めまい日誌の記録
「月間症状日誌」に、毎日のめまいの強さや回数を5段階で記録していただき、外来ごとに一緒に振り返りながら効果を評価します。
5. 1年後に継続の可否を判断
発作がほとんど出なくなっていれば、治療終了や減量を検討します。改善が乏しい場合には、内リンパ嚢開放術など次のステップを含めて相談します。

 

◎ まとめ ― 「めまいを抑える」ことに特化した治療

中耳加圧療法は、

  • 保存的治療では抑えきれない難治性メニエール病・遅発性内リンパ水腫に対して
  • 外科手術に進む前に試す価値のある、低侵襲の在宅治療であり適切な症例では、1年の継続で9割以上の患者さんにめまいの頻度低下が期待できる

というエビデンスが蓄積してきています。

一方で、

  • 聴力や耳鳴りの改善はあまり期待できない
  • 毎日コツコツ続ける“根気のいる治療”である

といった側面も正直にお伝えする必要があります。

 

当院では、長崎日赤原爆病院など国内有数の施設と連携しつつ、日本めまい学会での発表や最新の2025年ガイドラインの内容を踏まえながら、「薬だけではよくならないめまい」 に対する新しい選択肢として中耳加圧療法をご提案しています。

「めまいがつらくて仕事や家事が続けられない」
「薬を飲んでも発作が繰り返し起きる」

といったお悩みがあれば、一度ご相談ください。当院のめまい専門外来で、詳しくお話をうかがいながら、その方に合った治療のステップを一緒に考えていきます。

 

当院のめまい外来については、下記ボタンよりご覧いただけます。

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