いびき、睡眠時無呼吸症候群、内科、睡眠
オレキシンと睡眠の関係🐏
「オレキシン」という物質をご存じでしょうか。1998年に発見された脳内の神経伝達物質で、脳の視床下部にある少数の神経細胞から分泌されています。量はわずかですが、覚醒を維持するための「スイッチ」として非常に重要な役割を担っています。
このオレキシンを発見したのは、現在筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)の機構長を務める柳沢正史先生です。柳沢先生は発見当初から「オレキシンの働きを抑えれば不眠症の薬に、逆に補えばナルコレプシーの薬になるはずだ」と提唱しており、その予測どおり、この一つの物質から不眠症とナルコレプシーという対照的な2つの病気の治療薬が生まれることになりました。2026年9月には、この長年にわたるオレキシン研究の功績が評価され、「ノーベル賞の登竜門」とも呼ばれる米国のラスカー賞(基礎医学研究賞)を受賞されたことも話題になっています。
オレキシン神経は日中に活発に働き、脳の覚醒レベルを保つとともに、感情の高ぶりに応じて筋肉の緊張を保つ働きにも関わっています。夜になるとこの神経の活動が低下し、覚醒のスイッチが緩むことで自然な入眠につながります。つまりオレキシンは「眠りを作る物質」ではなく、「覚醒を保つ物質」であり、その働きが弱まることで眠りへの切り替えがスムーズに行われる、という関係にあります。
①オレキシン受容体拮抗薬(不眠症の治療薬)
このオレキシンの仕組みを応用して開発されたのが「オレキシン受容体拮抗薬」です。オレキシンが受容体に結合するのをブロックすることで、覚醒のスイッチを穏やかにオフにし、自然に近い入眠を促します。
従来のベンゾジアゼピン系睡眠薬と異なり、脳全体の働きを鎮静させるのではなく、覚醒と睡眠の切り替えに絞って作用するため、依存性やふらつきなどの副作用が比較的少ないとされ、現在の不眠症治療の中心的な選択肢になっています。国内ではこれまでに4つの薬が登場しています。
- ● ベルソムラ(スボレキサント)
- ● デエビゴ(レンボレキサント)
- ● クービビック(ダリドレキサント)
- ● ボルズィ(ボルノレキサント水和物)
これらはいずれもオレキシン受容体拮抗薬に分類される薬で、作用時間の長さや相互作用の注意点などに違いがあり、患者さんの症状や体質に応じて使い分けられています。最も新しいボルズィは、体内からの消失が比較的早く、翌日への眠気の持ち越しが少ないことを特徴として開発された薬です。
②ナルコレプシーとオレキシン
一方、オレキシンが「不足」することで起こる代表的な病気が「ナルコレプシー」です。特にナルコレプシータイプ1では、何らかの原因でオレキシンを作る神経細胞そのものが減少・脱落してしまうことがわかっています。その結果、日中に強い眠気が繰り返し起こったり、笑いや驚きなどの感情の高ぶりをきっかけに突然力が抜けてしまう「情動脱力発作(カタプレキシー)」が見られたりします。
これまでの治療は、眠気に対する精神刺激薬や、覚醒を間接的に高める薬が中心でした。しかし2026年、オレキシンの不足を直接補う新しいタイプの薬「オーゼイフル(オベポレクストン)」が国内で承認され、ナルコレプシータイプ1に対する国内初の治療薬として登場しました。これは脳内のオレキシン2受容体を直接刺激する薬で、不足したオレキシンの働きを補うことを狙った、これまでとは作用の仕組みが異なる薬です。
③まとめ
このようにオレキシンは、「働きすぎを抑える」不眠症治療と、「不足を補う」ナルコレプシー治療という、一見正反対に見える2つの病気の治療のいずれにも関わる、睡眠医学において非常に重要な物質です。日中の強い眠気や、突然力が抜けるような症状、あるいはなかなか寝つけない・夜中に目が覚めてしまうといったお悩みがある方は、一度専門的な評価を受けてみることをおすすめします。
当院では、福岡市・那珂川市・春日市エリアで睡眠外来を行っており、睡眠の状態や生活習慣、いびき・無呼吸などを総合的に診療しています。気になる症状がある方は、お気軽にご相談ください。
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